2025年07月25日
「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」寄稿記事②
竹久夢二は画家、デザイナー、詩人として多彩な活動を展開したマルチアーティストの先駆けともいえる芸術家ですが、手がけた絵画のジャンルも幅広く、日本画、油彩画、水彩画、版画とあらゆるジャンルで優れた作品を残しています。この展覧会では、その代表的な作品を通して夢二の芸術の全貌を紹介しています。
中でも本展の見どころとなっているのが油彩画です。多作で知られる夢二ですが、油彩画は希少で30点ほどしか現存していません。今回、その中から12点をまとめてご覧いただけます。
「アマリリス」は、1919(大正8)年の福島県での個展に出品された画業中期を代表する油彩画作品です。当時、夢二が長期滞在していた東京・本郷の菊富士ホテルのオーナーにお礼として贈り、応接間に飾られていましたが、ホテル閉業にともない長年行方不明となっていたものです。本展が約80年ぶりの公開となります。
本を手に、椅子に腰かけているきもの姿の女性は、当時一緒に暮らしていた恋人のお葉(本名・佐々木カネヨ)でしょう。油彩画でも「夢二式美人」は健在で、憂いを帯びた瞳が何かを訴えかけてくるようです。また、ひときわ目を引くのが人物と一体化しているようなアマリリスの大きな赤い花です。夢二は正規の美術教育を受けていませんが、西洋の美術書を取り寄せ、同時代の美術を熱心に研究していました。ここにはアール・ヌーボーなどの西洋の新しい美術の影響がうかがわれます。
また本展では、日本画も珠玉の名品をそろえた充実したラインアップとなっています。
「秋のいこい」は、画業中期を代表する屏風(びょうぶ)の大作です。描かれているのは、色付いたプラタナスの木に囲まれたベンチに座る女性。傍らには大きな信玄袋が置かれています。女性はやむにやまれぬ理由でひとり田舎から上京してきたのでしょうか。どこか目は虚(うつ)ろで途方に暮れているようです。当時、富山県に端を発する米騒動で国内は騒然としており、農村では身売りなど悲惨な出来事も起きていました。東京の上野公園にはあてもなく職を求めて上京した人たちがあふれていたといいます。そんな状況に夢二も心を痛めていたのでしょう。夢二らしい美人画でありながらも、社会問題に対する鋭いまなざしが感じられる作品です。
(大分県立美術館上席主幹学芸員 吉田浩太郎)

