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OPAMブログ

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「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その十四

寄稿 2017.01.28

豊後高田市香々地でのごちそうと長崎鼻を描いた新見館長のドローイング

豊後高田市香々地でのごちそうと長崎鼻を描いた新見館長のドローイング

開館2年目の渾(こん)身(しん)企画「オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO 遊ぶデザイン&暮らしのアート」展が終了した。もうすぐ開館以来の入場者数が100万人に達する。
昨年は開館2年目を強く意識し、単に絵画を鑑賞する場としてのミュージアムだけではない、新しい可能性を追求した。意図的に「五感」と「出会い」を意識してもらえる、美術館では珍しい種類の企画をあえて打ち出した年だ。
4月は残念なことに震災に見舞われたが、「シアター・イン・ミュージアム」で、ライブやパフォーマンス満載、日本の神道文化のルーツを写真で検証しながら、戦後の前衛美術までを実験的に紹介した。
続く「生への言(こと)祝(ほ)ぎ」展では、近代彫刻の雄、朝倉文夫の伝統から、大分アジア彫刻展大賞受賞者を核にした現代の彫刻表現、国際的な身体パフォーマンスの先鋭までを招待した。
そして「オランダのモダン・デザイン」展では、オランダと大分の故事に思いをはせながら、デザインや建築が生活に根付くダイナミズムを披露した。
2年目の企画の思想と筋は通したつもりだ。そして最近は、週末に家族連れで気軽に訪れる人々を多く見るようになった。だが、先鋭的な企画を広げるためのコンサートや工芸クラフトの展示販売、館外での屋台村や食のフェスティバルなど、当初もくろんでいた斬新なにぎわい創出のイベント企画のほとんどは実現できずじまいだった。
だから、県全体のどのくらい人が新生OPAM(県立美術館)に親しみを持ってもらえただろうか?企画の面白さや重要性を十分に説明し、分かりやすく広報できなかった僕らの責任も含めて、今後の課題は大きい気がする。
話題を変えて、今回は豊後高田市の話をしたい。永松博文市長には、僕は頭が上がらないぐらい感謝している。驚くなかれ、豊後高田市では昨年度、市民がOPAMを訪れるための助成をしていただいたからだ。
県内全市町村でそうやってもらえるように、つまり「文化に触れることがいかに大事か」を知ってもらうために、お願いして回りたいぐらいだ。
大分空港から美しい海岸沿いをずっと行くと、長崎鼻という風光明(めい)媚(び)で、ヒマワリでいっぱいになる天国のような岬に出る。ここで15日から始まったのが「花とアートの岬づくりプロジェクト」である。
オノ・ヨーコさんら「国東半島芸術祭」絡みの既存作品に加え、昨年の「生への言祝ぎ」展で紹介した畏友の彫刻家戸田裕介さんと竹田市在住の新鋭若手、森貴也さんの新作(2人共に大分アジア彫刻展大賞作家)が3月に設置される。
そしてロッジには別府の藤沢さだみさんが、かわいらしい動物のイラストを描くのである。しかも彼ら3人はこれから現地滞在し、住民の皆さんとワークショップをやりながら、アートを地域に広げていく。
使われてない畑を、住民の長い地道な努力で素晴らしい四季の花畑に変えてきた豊後高田市。ヒマワリ油の商品化、海水浴を塩の温泉と見立てる観光資源の開発など、立派で地道な試みの中に、アートによる住民の新しいコミュニティーづくりが本格的に加わることになった。ここに僕らは来年の国民文化祭で、広瀬勝貞知事が「県民全員が参加するお祭り」と言った目標の胎動を見る思いがする。
プロジェクトのシンポジウムに参加させてもらい、香々地での懇親会に出た、住民の皆さんによる地産地消の手作りのごちそう全てが、驚くべき滋味美味満載だったことを報告したい。
打ちたて、ゆでたて、歯触り抜群の寒そばをはじめ、たっぷりのだんご汁、酢みそを付けた朝できコンニャク、レンコンと干し大根のキンピラ、赤大根の酢の物、鶏飯のおにぎり、大好物の寒ナマコにタコなど。海山のうま味と人々の活気が合わさった見事な芸術品的祝宴に爽快な気分と頭の下がる思いがした一夜だった。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大学芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成29年1月28日朝刊掲載