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「天ヶ瀬あの日あの風プロジェクト」橋のカケラを想う

寄稿 2022.12.23

記憶を刻み未来へ鼓舞
「橋のカケラを想う」展評

「天ケ瀬あの日あの風プロジェクト『橋のカケラを想う』」が由布市湯布院町のJR由布院駅アートホールで開かれている。28日まで。入場無料。県立美術館学芸企画課長の宇都宮壽さんの展評を紹介する。

2020年7月7日に九州北部を襲った豪雨により、日田市天瀬町を流れる玖珠川が氾濫。濁流は天ケ瀬温泉旅館街に押し寄せ、大きな被害を引き起こし、さらに、玖珠川に架かる新天瀬橋は流された。その後1カ月半、その腹を空に向けるようにして河川敷に横たえられていた橋は、産業廃棄物として撤去され、処理されようとしていた。

それまで、人々の生活を支えていたものが、何らかの理由で役目を終え、新たなものに取り換えられていく。常識的に行われるこのようなプロセスに、この橋も委ねられるだけでよいのか。少なくとも、この橋を成仏させたいと思い動き始めたのが「天ケ瀬あの日あの風プロジェクト『橋のカケラを想う』」であった。

発起人は、実家が橋の近くにある佐藤栄宏(大分市)。彼が詠んだ「橋のカケラを想う」数編の詩、そして、彼の思いに共鳴した映像作家・美術家のヒグマ春夫(東京都)と彫刻家の森貴也(竹田市)が、廃棄されかけていた橋を題材にし、それぞれ、映像作品と彫刻作品を作った。

森の彫刻作品は、まず、北九州市や竹田市で発表され、昨年7月には、ヒグマの映像作品、そして、佐藤の詩とともに、かつて新天瀬橋のあった場所に展示され、読まれた。

湯布院の玄関口であるJR由布院駅に併設するアートホールは、国内外から訪れる多くの観光客が、列車を降り、次の目的地に向かうまでのひとときを、また湯布院の滞在を終え、列車を待つ時間を過ごす場所。これまで以上に多くの人が目にする展示となった。

「アートとは何か?」、そのようなことを問われる、考える、語り合う機会がある。人によって、そして、1人の人でもいくつかの答えがあるかもしれない。私に一つだけ答えをと聞かれたら、「『真』『善』『美』を有し示すもの」と答えるだろうか。

「橋のカケラを想う」は、人々の暮らしや思い出、記憶を、役目を終えた橋のカケラに刻み、映し出す、そして、未来に向けて歩み続ける人々を鼓舞し、勇気づけるしるべであり、「真」「善」「美」を有し示すものである。ぜひ、会場でご覧いただきたい。
 

「橋のカケラを想う」の展示風景=JR由布院駅アートホール提供
「橋のカケラを想う」の展示風景=JR由布院駅アートホール提供


大分合同新聞 令和4年12月23日掲載