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OPAMブログ

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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その二十三

寄稿 2015.03.23

 いよいよあと1カ月余りに迫ったグランドオープン。開館記念展は世界・大分の名品絵画200点が集う「モダン百花繚乱(りょうらん)」で工芸、デザインもある。「大分世界美術館」とネーミングしたのは、大分県そのものの豊かさが、そのまま「世界的ミュージアム」なのだという宣言だ。
 前々回も言った話だが、大分の真に世界性のある先哲の文化人の代表格に、国東半島・安岐の江戸時代の医者、哲学者の三浦梅園がいる。多くの示唆や解釈があり、その影響を僕は受けたのだが、いいかげんを承知で強引に解釈すると、梅園が言おうとしたことは、世界は「黒と白の正反対のモノがくっついたり、離れたりしながら、引き寄せられているその引力」がいっぱい集まって「できている」ということだろうか。
 すごい思想だと思うが、「何だ、ただそれだけか」と思う人もいるかもしれない。だがいつの時代にも、世界の真理とはそんな当たり前で、まっとうで単純なことばかりじゃないだろうか?
 ただ、僕にとってのテーマはその「当たり前の、まっとうなこと」をミュージアムを使っていかに、「面白くて、すてきなことだなあ」と観客の皆さんに実感で分かってもらうかということである。じゃあどうするか?
 大分県は独自に、ユニークにアジアや欧州、日本の他地域に開かれ、「異」なるものを吸収して育ってきた文化だ。僕は人間でも、モノでも、作品でも、「自分とは違う人やモノ、事に出会って刺激を受け、自分の中に取り込んで育つ」ものだと信じて疑わない。
 恋愛とはまさしく梅園の言うように「白と黒」が互いに「持っていない要素」を一方に見いだして、引かれ、引き寄せられ合うことだ。だから僕は、美術でも何でも「独りぼっちでポツンと居ると輝かない」「ハレーションは起こらない」と思う。
 皆人間も美術も、世界の「今までは全く知らない、思いがけないところや時代に」「自分の片割れ」がひそかに隠れて潜んでいるのではないかと思う。その遠く離れていた「片割れ」同士が、大分県の県立美術館でいまだどこにもなかった形で「出会う」というのが今回、開館記念展の挑戦的な趣向だ。
 オランダ抽象の王者モンドリアンと日田の宇治山哲平が出会う。ウィーン世紀末のシーレと髙山辰雄、モネやマチスと福田平八郎、さらには田能村竹田とルソー、竹工芸の生野祥雲斎とイサム・ノグチが「時空を超えて」出会うのである。古典やコンテンポラリーの出会いも満載だ。これこそはミュージアムにしかできない「夢の出会い」ではないだろうか?
 それは開館記念展だけでなく、それ以降の展覧会やワークショップ、坂茂さんの建築、1階アトリウムのインスタレーション、3階の「天庭」、ショップの品ぞろえ、カフェのメニューにも「全てに行き渡らせよう」と僕ら皆が工夫していることの基本思想である。
 世の中のプロジェクトはそれが国家運営でも、自分の家庭でも、ラーメン屋さんでも、ミュージアムでも、何でも「思想のないものは絶対に成功しない」というのが僕の信念だ。だから新県立美術館(OPAM)の思想は成長するための、人間皆がエネルギーを授けられる「愛のミュージアム」である。
 人は誰も間違うし、100パーセントなんか絶対にあり得ない。それでまた良いんだとも思うし、それが県民と一緒に「成長する」美術館だ。だが、あえて開館前からこう言い切ってしまおうと思う。僕らの目指す「愛のミュージアムの辞書には、失敗という文字は絶対にないのだ」

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

大分合同新聞 平成27年3月23日朝刊掲載