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生誕110年記念 糸園和三郎展 ~魂の祈り、沈黙のメッセージ~ 第1回

展覧会 2021.09.24

「日常」と「非現実」さりげなく
戦災を免れた貴重な作品

中津市出身の洋画家・糸園和三郎(1911~2001年)の生誕110年を記念した「糸園和三郎展」が大分市寿町の県立美術館で開かれている。同館学芸員が見どころを紹介する。(4回続き)

これまで糸園和三郎の大規模な個展は、1978年と95年に県立芸術会館で開催されました。今回は県立美術館として初めての、また糸園の没後初の回顧展です。一つ目の見どころとして、本展では、空襲の被災を逃れた数少ない初期作品から晩年の作品に至るまで、生涯にわたる代表作を県内外から集め、当館コレクションとともにご紹介します。
もう一つの見どころは、作品の構想を示す習作と筆やパレットなどの画材、そして、糸園本人が集めた海外作家の作品です。今回初公開となるこれらの資料からは、作家の創作の舞台裏を垣間見ることができます。


糸園作品の特徴の一つは、シュールレアリスムの要素があることです。糸園は、11歳のときに重い病を患い、以後の学業を断念しました。16歳で上京し、前田寛治が主宰する写実研究所で油絵を学ぶと、30年には春陽会展で初入選を果たし、やがてシュールレアリスムの有力新人として画壇で注目を集めるようになります。その頃の作品が、「犬のいる風景」です。戦時中に東京にあった作品は、大空襲に被災して全て焼失しましたが、本作品は、中津にあったため被災を逃れて今に残っています。


ここには、公園のような場所で犬が散歩している、穏やかで日常的な場面が描かれています。しかし、よく見ると、ところどころが非現実的に表されています。例えば、犬2匹の影は、奥から手前に向かって伸びていますが、木の影は途中で途切れ、電灯には影そのものがありません。こうした、日常的な場面にさりげなく非現実的な事や物を潜ませる描き方は、糸園作品にしばしば見られます。
糸園は必ずしも実際に目にしたものを描くのではなく、心に浮かんだイメージを長い時間をかけて熟成させ、キャンバスの上に移し換えていました。本人は、78年のインタビューで、自分の作品の特徴と作風に最も影響を与えたのはシュールレアリスムだと述べています。


(県立美術館学芸員 梶原麻奈未)


▽「糸園和三郎展」は10月31日まで。入場料は一般800円、大学・高校生500円。中学生以下無料。

大分合同新聞 令和3年9月24日(金)掲載

糸園和三郎《犬のいる風景》1941年 大分県立美術館
糸園和三郎《犬のいる風景》1941年 大分県立美術館