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OPAMブログ

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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その十四

寄稿 2014.06.23

10月末の完成に向けて建設工事が進む県立美術館の外観

10月末の完成に向けて建設工事が進む県立美術館の外観

 個人的な言い方で新美術館の将来像を披露しよう。

 1年目「大分で何でこんなことができるのか。驚天動地。絶対的な驚きを提供する」。2年目「やや手を抜くのかと思ったら、あに図らんや。まだまだやります。さらにもっと驚かせます。さらにあきれられ」。3年目「こうまでやるのは館長以下皆狂っているとしか思えないといぶかしがられつつ、同時にこの頃から、その踊りに、それなら付いていこうじゃないかというコアなファンが1万人に達する」。4年目「もう美術館見たさ。面白いものに参加したさ。生きがいに感じてくれるファンが10万人に!」。そうして5年目「とうとうもうミュージアムなしじゃ何も始まらないよという県民が、総人口の過半を超える!!」。

 僕は実は、大分に新しい県立美術館ができたら、全ての大分県人がアーティストになると信じている。

 それは本当にそうなのである。絵筆を執ったり、作品をつくることはむろん、最高に素晴らしいことで無上の喜びであり、それで多くの見る人をすごく心底幸せにする。

 だがミュージアムでは「見る」人も作品を認め、評価し、受け入れることで「十分アーティスト」たり得るのだ。皆がアーティストなのだというのが、21世紀に向けての美術館学の未来像である。

 僕は学生に「鑑賞」というのは実はない。全てが「創造」なのであると徹底して教えている。

 プロやアマチュア、つくる人と受け取る人の垣根のあるなしでなく、それが混然一体となって、大きく途方もなく広がり、びっくりするほどの熱気と喜びになってこそ、真の新しい文化も芸術もこの地に育つ。そのことを真の芸術家は、体の底から知っている。

 開館の楽しみは、坂茂さんの爽快、勇壮な建築大空間を体いっぱい満喫してもらうこと。さらには今までにない「驚くべき規模、内容の」「大分が世界に出会う、世界が大分に出会う」「真に互いが発見され、高め、深め合う」類例のない展覧会を楽しんで驚いてもらうことだ。

 楽しみはそれにとどまらない。高い部分で10メートルある巨大アトリウムでは、「ユーラシアの庭」を2人のデザイナーに委嘱して計画してもらっている。

 2人とも世界のトップランナーの巨匠である。一人はオランダを代表する中堅デザイナー、マルセル・ワンダース氏だ。

 縄編みのハンモックのような椅子を特殊技術で固めた「ノッティッド・チェア」での衝撃的デビュー以来、ファンタジーにあふれる大胆なインテリアやKLM航空のカトラリー類、日本でもコーセーの化粧品「COSME DECORTE」などで大活躍中。先日までアムステルダム市のステデリック美術館で若手では異例の大回顧展を行った。

 もう一人は、日本の現代テキスタイルを代表する須藤玲子さん。鉄サビ染めや銅線、輪ゴム、チョウの羽などを織り込んだ布、折り畳みバッグなどドラマチックで大胆な仕事で、毎日デザイン賞を受けた他、日本橋のマンダリンオリエンタルホテルの内装布地などを手掛けた。ニューヨーク近代美術館でのグループ展でも大人気を博し、世界中で引っ張りだこの人だ。

 この2人が、「ユーラシアの庭」での出会い、巨大なインスタレーション作品をそれぞれつくってくれていて、僕もプランを見ながら「これはすごいことになるぞ」とわくわくしている。

 なぜオランダと日本なのか?大分県人なら皆さんご存じだろう。難破しそうになったのを臼杵の人々が救ったヤン・ヨーステンらリーフデ(オランダ語で「愛」だそうだ)号乗組員の子孫と大分県人、日本人の出会いを400年ぶりに再演出しようという趣向である。

 人も作品もただそれがそこに「じっとある」だけでは輝かないし深まらない。全ては出会って、互いが見いだされ、掘り起こされ合ってなんぼというのが僕の信念である。

 新美術館の大小あらゆる局面に、この思想を徹底的に押し通すつもりである。


 新見 隆(にいみ りゅう)
 県立美術館長
 武蔵野美術大芸術文化学科教授

大分合同新聞 平成26年6月23日朝刊掲載