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「坂茂建築展-仮設住宅から美術館まで」 第3回

展覧会 2020.05.16

弱い素材で新しい構造
流行に流されぬ取り組み

大分県立美術館(大分市寿町)で開催中の「坂茂建築展~仮設住宅から美術館まで」は、世界的な建築家で建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を2014年に受賞した坂茂氏の35年間の活動を紹介しています。展覧会の内容は「(1)紙の構造」「(2)木の可能性」「(3)手で描く」「(4)プロダクトデザイン」「(5)災害支援」の五つのテーマで展開されています。テーマごとの見どころを2回にわたり紹介します。

坂氏は1986年、20世紀を代表するフィンランドの建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルト(1898~1976年)の家具とガラス展の展示デザインを担当します。天井や間仕切りの素材に費用を抑えられて解体しても再利用できる紙管を活用し、アアルトを想起させる曲線的な建築空間を再現しました。これが坂氏の代表作の一つとなる「紙の建築」のきっかけとなりました。

90年ごろからは、イベント会場や住宅などの建築物にも紙管を使うようになります。「紙の家」(95年)は紙管を構造材として使用する認定を取得して造られました。縦横10mの平面に紙管110本を立ててS字状に並べ、正方形と円弧の内外にさまざまな空間を形成しています。外周部のガラスの引き戸を開けると水平な屋根が強調され、回廊とテラスが一体となった空間になります。

95年に発生した阪神淡路大震災では被災者への支援として、紙のログハウスや紙の教会などを建設します。2000年に「人類、自然、技術」をテーマに開催されたドイツ・ハノーバー国際博覧会では、紙管でトンネルアーチ状の日本館を設計しました。

坂氏は近年、素材として木に着目しています。木は新しい素材ではありませんが、大規模な建築物では木の特性を生かしたものはほとんどありません。紙管建築で実現した「弱い素材を弱いなりに使う」という考え方を生かし、新しい技術を使って木の自然なぬくもりを感じさせる新しい構造や工法を開発しています。中でも「ポンピドー・センター・メス」(10年、フランス)や「ヘスリー・ナインブリッジズ・ゴルフクラブハウス」(10年、韓国)、「ラ・セーヌ・ミュジカル」(17年、フランス)などが代表的な建築物です。

「紙の構造」や「木の可能性」の取り組みは、流行に流されるのではなく、独自の思想で仕事に臨む坂氏の姿勢を表すものです。会場には、建築物の写真や映像だけでなく、実物大のモックアップ(模型)などを展示していて、その業績を体感できるようになっています。

(大分県立美術館・主幹学芸員 宇都宮壽)

▽坂茂建築展は7月5日まで。観覧料は一般1,000円、大学・高校生700円。中学生以下無料。
 

紙の家 ©Hiroyuki Hirai
紙の家 ©Hiroyuki Hirai
ヘスリー・ナインブリッジズ・ゴルフクラブハウス ©Hiroyuki Hirai
ヘスリー・ナインブリッジズ・ゴルフクラブハウス ©Hiroyuki Hirai


大分合同新聞 令和2年5月16日掲載