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OPAMブログ

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「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その十一

寄稿 2016.12.03

2日から始まった「オランダのモダン・デザイン」展の会場

2日から始まった「オランダのモダン・デザイン」展の会場

県立美術館(OPAM)で2日から始まった展覧会「オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO 遊ぶデザイン&暮らしのアート」は、館内アトリウムで展開する触って楽しめるマルセル・ワンダースの「ユーラシアン・ガーデン・スピリット(花束のバルーン)」とセットで楽しんでいただきたいものだ。
マルセルは臼杵沖の黒島に漂着し、地元の人に助けられた「リーフデ号」の乗組員と同じオランダ人であることから、その美談に対して、現代オランダから大分県民の皆さんへのプレゼントとしてデザインしてくれたわけである。
海外交易によって、欧州でもいち早く豊かな市民社会が発達した17世紀オランダ。当時興隆した花々や果物などをテーブルに載せて描く「静物画」の中に、骸骨を入れるオランダの風習があったそうだ。マルセルはそれを現代風にアレンジし、表面は花々と骸骨を思わせるデザインにしてくれた。
アムステルダムは世界遺産登録運河を囲んで美しい家々が並ぶ。本展監修者のライヤー・クラスは、街の中心は王宮ではなく港だと主張する。そんな民主的な街は他の欧州諸国にはないと断言する。温かみがあると感じるのは、低層の住居群のほとんどがれんがで積まれているからだ。徹底して手づくりの「ヒューマンスケール」の街並みを自転車が行き来している。
オランダきっての宗教学園都市ユトレヒトの郊外の牧草地に向かって立つ、20世紀建築の金字塔といわれる小さな住宅が実は本展の主人公である。
夫を亡くしたシュローダーさんという女性が、3人の子どもたちと住むための新しい家をリートフェルトという建築家に依頼した。彼はもともと宝飾を作っていて、後にはすごく面白い家具を創案した職人かたぎのデザイナーだった。
シュローダーさんは考えた。2階を広々としたガラス張りにし、眺めの良い場所で子どもたちと朝ご飯を食べたい。でも寝るときはそれぞれが静かにプライベートの空間を持ちたい。
リートフェルトは日本のふすまや障子の原理にヒントを得て、大きなスライド式で収納可能な間仕切り壁を生み出した。
20世紀の新しい暮らし方を提案した、この画期的な「元祖ワンルーム・リビング」はかくして生まれた。それ以降2人は共同して、次々に新しいタイプの住宅を設計していった。
リートフェルトのデザインした「レッド・ブルー・チェア」は、創意工夫あふれる日本の空間づくりを最も象徴的に感じさせる、モダンな名品だ。単純な部材によってシンプルにできている。隙間だらけで至極座り心地は良い。部材を外せば、すごくコンパクトで持ち運びしやすい。井桁のように細い四角な木の棒で組んであり、正倉院の校倉(あぜくら)造りや、日本の古い建物を思わせる。
キリスト教の神様は絶対神で宇宙や地球を支配し、決して動かない。それに対して、アニミズム(自然崇拝)に基づく日本のやおよろずの神々はこの世とあの世を行ったり来たりする。いろいろな空間が動いては現れ、すっと引っ込んで収納される「シュローダー邸」はまさにアニミズムのようだ。ここにもすてきな日蘭の出会いがあると感じるのは僕だけだろうか。


新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大学芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年12月3日朝刊掲載