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OPAMブログ

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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その二十四

寄稿 2015.04.20

 いよいよ新県立美術館のオープンがあと数日に迫った。よく友達や知人に「おまえ、よくのんきな顔していられるな」とあきれられるけれど、僕は「どっかで読んだが、ロシアのバルチック艦隊を対馬沖で迎え撃った連合艦隊司令長官の東郷平八郎元帥は、砲撃が始まっても甲板で悠々と炭酸水を飲んでいたそうだから」と冗談めかす。
 ミュージアムは大船団であって、僕なんかその甲板掃除をしているくらいのものだ。この半年は学芸員はもとより、広報や事務スタッフ、県の美術館推進室や県芸術文化スポーツ振興財団一丸となり「23時間」体制で臨戦していたようなものだった。暇なのは僕ぐらいだっただろう。
 本当にこの大船団の構成員一人一人のスピリットというか、「県民の皆さん全員に喜んでもらうため」「地域創生の大きな拠点になるため」という責任感や使命感と、そのまさしく「獅子奮迅の働き」には心から感謝しているし、心底頭が下がる思いだ。
 「おいおい、まだ開館前。そんな悠長なことを言ってていいのか?」といぶかられそうだが、何しろこのミュージアムの出来栄えについては、僕自身が展示やら設営を実際にやっていて、「こんなに面白い、すごいミュージアムをつくって、本当にいいんだろうか?」と本心から感じるぐらいにびっくりしている。
 前回も言ったことだが、僕ら大船団の「愛のミュージアムに絶対に失敗はない」と200パーセントの確信でもって申し上げたいと思う。
 3階のコレクション展では最高のハイライトをゆったり、たっぷり、空間を生かしながら配置展示した。もともと優品ぞろいだが、これだけ空間が豊かだと芸術会館の展示とは全く違って、「作品が倍加して輝くなあ」と感じていただけること請け合いだ。
 3階「天庭」の空に抜けるスペースには、素晴らしい「天の花園」のインスタレーション(空間芸術)になっている。カラフルなテラコッタ(素焼き陶器)は作者の亡き礒﨑真理子への弔いのつもりだが、いかにも生き物のように息づく。徳丸鏡子の大きな白い花の陶器の見事な精神性。高橋禎彦のガラス火種を巻いて作った自在でユニークなオブジェには、もう一つの庭の表情が映る。さらに巨匠中村錦平が花を添えてギラギラと輝く。
 1階西壁はミヤケマイによる「大分観光壁」。世界鳩(はと)時計は大分を中心に配されて楽しく、奥には現代版大分灯籠が下がる。豊後高田市の職人との見事なコラボレーションだ。ハニカム絵や寝っ転がって楽しむ「大分プール」など躍起する「大分芸術パーク」の感すらある。
 そして大分の竹編み技術とコラボレーションした須藤玲子「シャンデリア」。ハスの花のように僕らは水面を見上げて、光とテキスタイルの供宴を体いっぱいで感じる。
入り口で迎えるのが花々の咲き乱れる「骸骨」フェースのバルーンだ。これは文句なく興奮する仕掛け。オランダデザインの貴公子マルセル・ワンダースのアートオブジェである。
 これにさらに驚きの出会い、大分芸術の世界性を示す一大開館記念展が1、3階で展開するわけで、これはもう1日ではとうてい無理、1週間大分に居ないと全部は見切れない、そういう「面白ミュージアム」の誕生なのである。
 このミュージアムはまさに宇宙芸術霊から大分県民皆さんへの一大プレゼントである。「心からおめでとうございます」と僕は言いたい。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

大分合同新聞 平成27年4月20日朝刊掲載

徳丸鏡子、礒﨑真理子、高橋禎彦によるインスタレーション「天庭」 マルセル・ワンダース「ユーラシアン・ガーデン・スピリット」(2015年)
徳丸鏡子、礒﨑真理子、高橋禎彦によるインスタレーション「天庭」 マルセル・ワンダース「ユーラシアン・ガーデン・スピリット」(2015年)